【ネタバレ有感想】ミュウツーの逆襲とは【evolution】

ミュウツーの逆襲とは「みんなが勝手をする物語」である。

 

冒頭から勝手な人間がどんどん出てくる。研究のために最強のポケモンを、頼んでもいないのに生み出す科学者。最強のポケモンを利用することしか考えていない悪の首領。他人の飯時なんざ知ったこっちゃないレイモンド。サトシだって飯の準備はしないがバトルはするし、タケシはシチューとお姉さんのことしか考えていない。

 

海を渡るシーンはその最たるものだと思う。Evolutionされた嵐の夜の海はそりゃもうとんでもない荒れようで、入ったら死ぬということが見ただけで感じ取れる。やたらいい声の海のプロがこりゃあかんと判断する中、トレーナーたちは自分の都合しか考えていない。俺のポケモンは水に強いから大丈夫。空を飛べるから大丈夫。そう勝手に判断し、制止を振り切って海を渡り始める。雨が降ってれば空を飛ぼうが雷は必中だし、ダイビング中の波乗りは倍増ダメージだが、ポケモントレーナーの耐久性は現実世界のそれをはるかに凌駕しているらしく、意外なほどすいすいと荒海を渡っていく。虫ポケモンのストライクにつかまって渡ろうとするやつまでいる。無謀の極みだが、大人たちは「それがポケモントレーナー」とため息をつくことしかできない。あきらめるくらいなら最初から夢見ない。トレーナーとはもともと勝手な人間たちなのだ。ただ、ストライクで渡ろうとした少年はニューアイランドにはたどり着けなかった様子。まあ、無理だよね…。

 

じゃあポケモンはというとこちらも勝手なもので、産まれた直後に存在意義を問い、答えが返ってこないのでかんしゃくを起こすミュウツーを筆頭に、他人の飯を吹っ飛ばしても気にせず、手紙を渡すことしか考えないカイリュー、evolutionしても煽り家のミュウなど、まあ勝手な連中が揃っている。とりわけミュウツーの手前勝手さは特筆すべきであり、自分の世話のためにジョーイさんを洗脳するわ、作ってくれと願われていないのにコピーを作るわ、人のポケモンを取って泥棒するわ、やりたい放題である。人間たちに勝手をされて生み出された我が身、ならば私も勝手にするという考えなのか、「私のルールは私が決める」そのうえで他人にルールを押し付けるとんでもない輩である。

 

自分勝手なものたちなので、当然ぶつかり合いになる。トレーナーとミュウツーから、ミュウに煽られてコピーとオリジナルのぶつかり合いへ。存在意義をかけた者たちの戦いはとても物悲しく、語りたいことはたくさんあるのだが、識者が散々語っているのであえて割愛する。

 

ともかくサトシは石になる。石になったサトシにピカチュウが電撃を浴びせるシーンで私はいつも泣いてしまう。起きないサトシを起こそうと、いつもの起こし方をするピカチュウ。それでもサトシは起きなくて、だから電撃を繰り返す。たとえ自分が疲れ果てても、そうすればいつものように起き上がってくれると信じて…。ピカチュウの姿は親の死を理解できない幼子の様で、最近1歳半になる娘を持つ親としてマジで涙腺に来るのだが、絵面としては石化したサトシのオーバーキルを狙うピカチュウにも見えるためか、このシーンで笑う人たちもいる。映画館でも笑い声が聞こえたし、なんなら私の妻も笑っていた。いろんな感想を持つ人がいるんだなあ…と思いました。

 

人とポケモンキズナをみたポケモンはみな涙を流し、結果としてサトシは復活する。キズナの奇跡は自分にもできないことを起こせると悟ったミュウツーは、「みんなみんな生きているんだ」となんか一人で納得し、ミュウに同意を求める。ミュウは一鳴きするだけだが、きっと「は?」とか言ってる。あの性格だし。ミュウツーが空気を読めるポケモンでよかったと思う。本当にミュウのクローンだったら、あそこから喧嘩を再開してぐっだぐだになっていた可能性が高い。

 

そしてミュウツーはさらに「みんななかったことにしようぜ」と言い出す。いや、お前が始めたんだろ? どこに行くのかという問いには答えず、生きていくことだけを伝え、コピーたちを連れ、どこかへ飛び去って行く。関わったトレーナーの記憶を消して…。身勝手さここに極まれりである。そうしてだれにも望まれなかった逆襲は幕を降ろす。

 

勝手な連中と評したが、なにも糾弾だけしたわけでもない。ミュウツーの逆襲は生き物の物語でもある。誰に望まれて生まれたわけでなくても、生きていくのに許可はいらない。それこそ勝手でよいと思う。

野生の動物なら生存を、存在意義をかけぶつかり合うこともあるだろう。では社会性を持つ人間同士なら? あるいは人間と同等の知性を持つ生き物なら?

ミュウツーの逆襲はそういうことを伝える物語なのかもしれない。という、私の勝手な感想である。